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不動のようで蠢いていた(2023年改変型)
本作は2021年に制作した〈不動のようで蠢いた〉を再編したものである。原型は訪れた土地から得た印象に負う部分が大きかったのに対し、本作は一旦解体された残骸を組み直す工程の中で、造形が段階的に再発見されていく様に面白さを見出した。故に原型の構成が持つ流れを引き受け、先鋭的に提示することに重きを置いている。
制作工程的に明らかであるが、本作はカービングでは始めから存在することが前提となる一定のボリュームを持たない。形を立ち上げるためには仮想的に基点を設け、それを基準に特定の方向から繋げていく方法を選択せざるをえず、彫刻の外枠はその制作過程と一致した流れの中で出現する。
2021年当時の強烈な体験から導かれたモチーフは既に過去の記憶となり、実体を伴う感覚は薄れていた。それを反映する様に、作品がそもそも備えていた不安定な印象はより強化され、立ち上る煙の様に正面から見た場合右下から左上に向かう動きが強調された。本作における具体的な部位はむしろ全体の流れを明確にするための指示的な構成要素となることで、人体からより逸脱し、作品内部の破綻や空虚さを演出する。
自らの過去作と邂逅することで、当時の私に触れ、思い出された記憶や失われた感覚を意識する。こうして複雑な時間のうねりを本作は内在することになる。