
カメレオンの諦念
H22×W25×D20 cm
photo Ujin Matsuo
複雑怪奇なリズム、斬新な不協和音の連続。軋み、叫び、崩れ落ちる。初演時には観客に怪我人が出るほどの騒動となったバレエ「春の祭典」。ストラヴィンスキー(1882〜1971)の不動の代表作だ。
しかし、この作品は長命を得た作曲家が31歳のときの初期の楽曲だ。その後、どんなに激しい世界が発展していくのか期待して、彼の仕事を追っていくと肩透かしをくらう。
「カメレオン音楽家」「1001の顔を持つ男」などと呼称される彼は、生涯に何度も作風を変えた。教科書的には「春の祭典」が含まれる『原始主義』、古典的な作品に規範を求め、簡素で平明を旨としながらも程よくスパイスを効かせた『新古典主義』、規定のシステムに則して音を並べ作品化していく『セリー主義』に大別される。しかし、制作順が隣合った楽曲でも同じ人が作ったのか分からなくなるほど違う雰囲気であることも多い。故に一貫したテーマの様なものがなかなか見えてこない。
彼は一箇所に留まることがなかった。政治状況に合わせてロシア、フランス、スイス、アメリカと棲家も転々と変えるコスモポリタンだった。彼の作風の変容は時代の潮目を読み、生き長らえるための処世術だった。そして、何より非常に才気走った人だった。彼は常に時代のトップランナーたるべく自らをアップデートし続けることが出来たし、そうせざるを得なかった。
今日出世作である初期作品の演奏頻度はとても高い一方で、先を行き過ぎた後期作品は演奏されることは少ない。この状況が今後変わっていくかは分からない。
彼の音楽を聴くと、こちらが試されている気がする。音楽から人となりが見えてこないのに、どこか冷たい笑顔で見透かされている。