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美食に隠れて
H35×W50×D25 cm
photo Ujin Matsuo
歌劇「ウィリアム・テル」の序曲は運動会の定番だ。
小気味良いリズムと歌いやすい旋律の数々。とにかく人をワクワクさせる音楽を量産出来たロッシーニ(1792〜1868)はオペラにおける規格外の成功者だった。成功し過ぎて37歳の「ウィリアム・テル」を最後に引退する。フランスからの終身年金まで得て、以降はもっぱら美食の道を探求し、76歳で死ぬまで悠々自適な生涯を過ごす。羨ましい。
とはいえ、並の成功者ではなく規格外の成功者だった彼。おのずと周りに文化人のサークルができた。彼は自らの発言や冗談1つにどれだけの影響力があるかを正しく理解していた。そして、時にはそれを巧みに利用した。結果的に人と人を結びつけ、若い才能が世に出るきっかけを沢山作った。遺産は彼自身の意思で音楽学校と困窮した引退音楽家のための老人ホームの設立に充てられた。作曲家が福祉活動に貢献した最初期の事例である。
ごく最近、公的な引退後もかなりの作品を残していたことが広く知られるようになった。宗教曲や、それぞれに「ロマンティックな挽肉」、「バター」、「喘息練習曲」といったふざけたタイトルのついた「老いの過ち」と総称される作品群がにわかに注目を集めている。
一聴して分かるのは楽しいということ。枯れるどころかますます自由な音楽の数々は、彼が生涯稀代のエンターテイナーであったことを改めて証明している。