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ある種の自刻像として
本作は寄木による制作を経験したのちに一木造りを意図的に採用した作品である。自作の構成がますます複雑化する中で、改めて自らの作風や問題意識を見つめ直す目的で、素材の用い方や造形面で基本に立ち返ることを目指している。モチーフはフランツ・シューベルト、アルバン・ベルク、無貌の私自身である。
丸太の量塊を彫刻全体の地山として採用することで、作中の複数の人物が「同じの地面に立つ」という状況を生み出した。これにより、彫刻全体に一体感が生じると同時に、現れる3つの頭部の作品上での配置や役割は比較的等価なものとなっている。結果的に人物像としての主体は分散化され、明確に全体を統べる人格の様なもが希薄となっている。本作の顔貌表現で顕著な仮面や眼鏡、省略といった意匠は、感情表現や個人性と結びつけられる部分である目の描写を避けたことを明示するための記号でもある。
人物彫刻では、その対象に製作者が振る舞いを与えたり、変形を施すことで仮想的な人格を生み出し、モデルとなる人物ごと制作者側が使役してしまうという状況に陥る。ここから逃れることは困難であるが、私はこのあり方に抵抗を覚えている。本作は作品の主体を分散化させることで、特定の個人に自己を投影するという図式とは異なる方法で、自らを重ねる枠組みを探ったものであり、他者の顔を用いながらも明確に自刻像としての性格を前面に押し出している作品である。